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千葉地方裁判所 昭和57年(ワ)1120号 判決

原告

小山達夫こと金達夫

被告

白石利夫

主文

一  反訴被告は反訴原告に対し、金九万六、九六〇円及びこれに対する昭和五五年六月一九日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、本訴反訴を通じて原告(反訴被告)の負担とする。

四  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告は原告に対し、金二四二万二、五五〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払い済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言。

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  主文第二項と同旨。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  主文第一項と同旨の判決及び仮執行宣言。

2  訴訟費用は反訴被告の負担とする。

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  反訴原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は反訴原告の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 交通事故の発生

日時 昭和五五年六月一八日午前五時三五分ころ

場所 千葉市みつわ台二丁目四七番一八号先路上

被害車 普通乗用自動車(広島三三す二二八三、以下原告車という)

右運転者 原告

加害車 普通貨物自動車(千葉四五さ八二八五、以下被告車という)

右運転者 被告

事故態様 原告車が前記場所を東寺山方面からみつわ台四丁目方面に向つて進行中、対向の被告車と正面衝突したもの。

2 責任原因

(一) 被告は、本件事故当時、被告車を所有し、その使用に供していたものであるから、被告車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて原告が受けた人的損害を賠償する責任がある。

(二) 被告は、前方不注視、一時停止違反、徐行義務違反の過失によつて本件事故を惹起させたものであるから、民法七〇九条に基づき本件事故によつて原告が受けた人的並びに物的損害を賠償する責任がある。

すなわち、本件道路は全体に幅員が狭く、特に本件事故現場は幅員も狭ばまり、カーヴしており、東側は側溝があり、西側は草が生え見通しが悪い。東寺山方面からみつわ台四丁目方面へ向う車輌は、右カーヴ地点で道路中央付近を走行するを常とし、また右カーヴ地点では、対向車同志はすれ違うことが出来ない状況である(特に本件のような大きな車同志ではなおさらである)から、右カーヴを出てきた車輌が対向車線側にはみ出して走行することは充分予想されるところである。また、右カーヴ附近にはカーヴミラーが設置されているのだから、被告車は、原告車が右カーヴ内に進入してくることがわかつたはずである。従つて、被告は、前方及び前方に設置されているカーヴミラーを注視し、原告車が通過するまで右カーヴ中に進入することを差控える義務があつたか、少なくとも徐行する義務があつたのに、被告は漫然と進行した過失により本件事故を惹起させたものである。

3 損害

原告は本件事故により、頭部外傷、頸椎捻挫、右第二指基節骨々折、骨折後右MPIP小関節拘縮の傷害を負い、花輪ケ丘病院に昭和五五年六月一九日から同年七月四日まで(実数一六日間)入院し、同年七月五日から昭和五六年六月三〇日まで(内治療日数四〇日)通院し、現在に至るも同病院に通院加療中である。また本件事故により、原告所有の原告車を損壊された。

右受傷及び原告車損壊による損害の数額は次のとおりである。

(一) 治療費 一六万八、九五〇円

(二) 通院費 四万八、五〇〇円

(三) 看護料 一万九、六〇〇円

(四) 諸雑費 八、〇〇〇円

(五) 文書料 七〇〇円

(六) 休業損害 三三七万九六七円

原告はギタリストを職業とし、千葉市内のクラブ等で演奏し、毎月最低五五万円の収入を得ていたが、前記右指の骨折のため昭和五五年六月一九日から同年末日まで休業を余儀なくされたことによつて蒙つた損害のうち六ケ月分。

〈省略〉

(七) 労働能力喪失による逸失利益 一一八万八、〇〇〇円

原告の傷害は障害等級第一三級に該当するので労働能力喪失率は九パーセントであり、この状態は二ケ年は継続したので、この間の労働能力喪失による逸失利益。

550,000円×0.09×24=1,188,000円

(八) 後遺症に対する慰謝料 一五〇万円

(九) クラブマキへの支払い 六〇万円

原告は、ギターの演奏先であるクラブマキ(有限会社友勝商事経営)より演奏不能による損害金として六四万円の請求を受け、昭和五五年一〇月三〇日、同社に対し六〇万円支払つた。

(一〇) 原告車修理代 八九万二、四〇〇円

(一一) 弁護士費用 三〇万円

4 損害の填補

原告は、前項(一)ないし(五)の損害の填補として自賠責保険より、合計一二〇万円を受領した。

5 結び

原告は被告に対し損益相殺したのちの損害金六八九万七、一一七円の一部である二一二万五五〇円とこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1について認める。

2 同2について(一)のうち被告が被告車の運転供用者であることは認め、その余は争う。(二)は争う。東寺山方面からみつわ台四丁目方面へ向う車輌はカーヴ中央付近を走行するを常とするとの点は争う。本件事故の衝突地点はカーヴ内ではない。原、被告車の車幅は共に一・六九メートルであり特に大きな車輌とは言えない。本件事故現場付近に設置されていたカーヴミラーは、草木の繁みに妨げられ、被告車進路から原告車進路を見通すことはできなかつた。

3 (被告の主張)

本件事故現場は車道幅員四・八メートルのセンターラインのない路上であり、かつ被告車進路からみて右にカーヴしている地点である。被告車は本件事故現場付近路上左側を、時速約二〇キロメートルで走行して行つたところ、対向方向より進行してくる原告車を発見し、発見すると同時に急制動を施し、道路最左側端に寄つて衝突時には停止していた。よつて、被告において被告車の運行に過失はない。

4 同3について原告の受傷及び原告車の損壊は認めるが、受傷の部位、程度は不知、その余は争う。

5 同4について認める。

三  抗弁

1 自賠法三条但書による免責

(一) 二3項の主張を援用する。

(二) 原告は、見通しの悪い前記カーヴを左側走行義務に違反して運行し、被告車を発見しても適切なハンドル操作及び急制動を施すことなく、時速約三〇キロメートルで漫然と進行した。また原告は本件事故当時、飲酒酩酊していた。

よつて、本件事故は、専ら原告の右過失によつて惹起されたものである。

(三) 被告車には構造上の欠陥、機能障害はなかつた。

2 過失相殺

仮に被告に過失があつたとしても、原告にも前記1(二)の如き過失があつたのだから、原告の損害を算定するに当つては、右の点を斟酌して減額されるべきである。

四  被告の主張及び抗弁に対する認否

1 被告の主張及び抗弁1について同主張及び抗弁1(一)(二)は争う。但し、本件事故当時、飲酒していたことは否認。(三)は明らかに争わない。

2 抗弁2について争う。

(反訴)

一  反訴請求原因

1 本訴請求原因1と同じ。

2 本訴抗弁1(二)と同じ。

3 本件事故により、被告は被告所有の被告車を損壊され、修理費として九万六、九六〇円を支出した。

よつて、被告は原告に対し、民法七〇九条により、損害金九万六、九六〇円及びこれに対する事故の翌日である昭和五五年六月一九日から支払い済みに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  反訴請求原因に対する認否

1 反訴請求原因1について認める。

2 同2について争う。

3 同3について被告車が損壊したことは認め、その余は不知。

第三証拠〔略〕

理由

第一本訴請求について

一  請求原因1(事故の発生)の事実、被告が被告車の運行供用者であること及び本件事故により原告が受傷し原告車が損壊されたことについては当事者間に争いがない。

二  そこで抗弁1(自賠法三条但書による免責)について判断する。

1  成立につき争いのない甲第一号証及び乙第一号証、原告又は被告主張の写真であることについて争いのない甲第七、第九号証の各一、二及び乙第四、第六号証の各一、二、証人磯貝彰一の証言、原告及び被告各本人尋問の結果並びに検証の結果を総合すると次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(一) 本件事故が発生した道路は、東は千葉市東寺山町方面へ、西は同市みつわ台四丁目方面へ通ずる、センターラインのないかつ車歩道の区別のないアスフアルト舗装道路である。本件事故付近の状況は、道路北側に沿つてU字溝が設置され、道路は同U字溝をもつて住宅地に接し、同住宅地の周囲はU字溝に沿つて高さ約二メートルの生垣が植栽され、道路南側は登り傾斜面の土地が続き、傾斜面には背の高い樹木及び下草がうつそうと繁つている。道路は、本件事故衝突地点から東寺山町方面へ約一〇メートルの地点を中心として、同町方面からみつわ台四丁目方面へ向つて左側に急カーヴしている。同カーヴ手前からの同道路の見通しは、道路北側の生垣に妨げられ、東寺山町及びみつわ台四丁目両方面からとも極めて悪い。同カーヴ中心付近道路の南端にカーヴミラーが設置されているが、同カーヴミラーに事故当時蔓草等が絡つていたかどうかはともかくとして、周辺の草木や樹木の枝葉に妨げられて、同カーヴミラーはやや見えにくい状態にあつたものである。

道路の幅員は平均して約四・五〇メートルないし四・八〇メートルぐらいで、カーヴ中心付近では約五・三〇メートルであり、本件事故衝突地点では約四・一五メートルで特に幅員が狭くなつているが、原、被告車のような普通乗用車程度の車幅の車輌同志であれば、本件事故衝突地点及びカーヴ中心付近においても低速度ですれ違うことは十分可能である。

同カーヴ少し手前の道路面には、本件事故後、両方面に向けて、「カーヴ注意」の道路標示が施された。

(二) 本件事故衝突地点は、原告車進路(東寺山町方面からみつわ台四丁目方面へ)からみると、ほぼカーヴを曲がり切つた辺りの道路右側である。同地点で原告車と被告車は正面衝突(原告車の方がやや道路中央に寄つていた)をした。

2  (被告の過失の有無について)

(一) 1項で認定した道路状況にあつて、被告において本件事故現場付近を走行するときに、いかなる注意義務があるかについて考えるに、被告は前方を注視し、道路がカーヴしていることに気づくとともに減速し、カーヴを低速度または徐行して走行すべき注意義務があり、また対向してくる原告車に気づいたら直ちに減速し道路左側を走行し、低速度または徐行して原告車とすれ違うべき注意義務があると認められる。原告は、被告にはカーヴ手前で一旦停止義務があり、被告は原告車が通過するまでカーヴに進入するのを差控える義務がある旨主張するが、前記認定のとおり、原、被告車はカーヴ内ですれ違いが可能であるから、被告には同主張のような義務はないといわざるをえない。

(二) 前掲乙第一号証、同証言並びに原告及び被告各本人尋問の結果によれば次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

被告は、本件事故現場付近をみつわ台四丁目方面から東寺山町方面に向けて進行中、カーヴミラー手前約四〇メートルの地点で前方に右に曲るカーヴに気付き、被告車の速度を時速約二〇キロメートルに減速したところ、カーヴミラー手前約二〇メートルの地点で対向方向から進行してくる原告車を前方約二三ないし二四メートル先に発見した。そこで被告は、直ちにハンドルを左に切つて被告車を道路左端に寄せるとともに急制動の措置を取つたが及ばず、原告車と正面衝突してしまつたものである。

(三) したがつて、右認定事実によれば、被告においては、(一)項で認定した注意義務をすべて尽しているので、本件事故につき過失はなかつたといわざるをえない。

3  (原告の過失の有無について)

(一) つぎに、原告において本件事故現場付近を走行するときに、いかなる注意義務があるかについて考えるに、基本的には2(一)で認定した被告の注意義務と同じであるが、原告車はカーヴの内側を走行するわけであるから、被告車以上にハンドル操作に留意し、カーヴ地点で道路右側を走行しないよう注意すべきである。

(二) 前掲2(二)の各証拠によれば、次の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。なお、本件事故当時、原告が飲酒酩酊していたことを認めるに足りる証拠はない。

原告は、本件事故現場付近を東寺山町方面からみつわ台四丁目方面に向けて時速約三〇キロメートルでカーヴ地点を進行中、カーヴミラー手前約五メートルの地点で対向方向から進行してくる被告車を前方約二四メートル先に発見したが、直ちに急制動の措置をとることなく、漫然と前記速度で道路右側を走行し、被告車と正面衝突したものである。

(三) したがつて、右認定事実によれば、原告において、左側走行義務違反及び減速ないし徐行義務違反の過失が認められ、右義務違反の結果、本件事故が惹起されたものというべきである。

4  被告車に構造上の欠陥、機能障害がなかつたことについては当事者間に争いがない。

三  以上の次第であるから、被告の前記抗弁はこれを認めることができるので、原告の主張はその余の点につき判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がない。

第二反訴請求について

一  反訴請求原因1については当事者間に争いがなく、同2については前記認定のとおり原告に過失を認めることができる。

二  同3については、本件事故により被告車が損壊したことは当事者間に争いがなく、被告本人尋問の結果により真正に成立の認められる乙第二、第三号証、成立につき争いのない乙第五号証によれば、被告が被告車の修理費用として九万六、九六〇円を支出した事実が認められる。

三  よつて、被告の反訴請求は理由がある。

第三結論

以上によれば、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、被告の反訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して本訴反訴を通じて原告に負担させることとし、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本由美子)

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